塔2016年11月号の作品2・小林幸子選歌欄から。
記憶とはむしろ細部のことばかりくびすじ蒼きひとでありたり 中田 明子 P157
毎回巧いのが中田さん。
人間はどんどん忘れていく。
記憶はまさに断片として残っていく。
「くびすじ蒼きひと」はなんだか
儚い印象をたたえています。
この一首を読んでいると、
夢のなかを覗いてしまったような気持ちになります。
百日紅ふきだして夏、熱帯夜うすい背びれをひるがえしたり 山名 聡美 P158
今回の山名さんの詠草で特に惹かれた歌です。
「うすい背びれ」によって
熱帯夜が大きな魚として
夜空にいすわっているようです。
ちょっと幻想的な感じをたたえた一首。
ほかにも山名さんの歌で
土を離れふたたび土に落つるまでの蝉の時間に注ぐ陽光
*蝉は旧漢字 *離れ=かれ 山名 聡美 P158
もとてもいいなと思います。
「蝉の時間」という言葉で、
人間の一生とは違う生命の流れがあるんだ、
と再認識します。