塔2016年11月号の作品1・永田和宏選歌欄から。数字はページ数です。
お互いの屋根裏部屋を少しずつ見せ合うように手紙を交わす 白水 麻衣 69
いままさに親しくなりつつある人でしょう。
だんだんとお互いの内面を見せていく様子を
「屋根裏部屋を少しずつ見せ合う」という比喩で
表現しているのが的確でいい。
黒アゲハ少数意見を汲むごとく低く重たくわが庭を飛ぶ 石井 夢津子 71
「少数意見」という言葉を蝶が飛んでいる様子に用いるのが斬新。
少数意見を汲む、ということは根気や気配りがいる。
「黒アゲハ」「低く重たく」という表現が
その大変さを語っているようです。
ほとんどは失われていく夏の木の翳りに銀の椅子をひろげる 荻原 伸 72
結句の「ひろげる」という動詞に着目しました。
折り畳み式の椅子で、金属のきれいなツヤがあるのでしょう。
なにが失われていくのかはわからないけど、
暑い夏の喪失感をともなった時間の流れと、
木陰に点のように存在する「銀の椅子」の組み合わせが美しい。
まぁ、こんな感じで選歌欄ごとに
いくつかの歌をピックアップしていこうかな、って思います。