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波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

一首評 「水面」

読み終えし本は水面のしずけさのもうすこしだけ机に置かむ   *水面=みなも
        吉川宏志 「無花果」『鳥の見しもの』 

この歌が収録されている連作の4首目には

吊り革を持つ手離して捲りおりふたたびを読む『チェルノブイリの真実』   *捲り=めくり

という一首があります。

「読み終えし本」というのはもしかしたら
チェルノブイリの真実』を指しているのかな、と思います。

かつては関心があったのに、しばらく離れていた原発事故に対して
もう一度向き合っていく姿勢がこの連作にも歌集全体にも出ています。
実際にデモに行っても、非力であることがわかっているけど
身近なこととしてもう一度、見てみる。

読み終わった後にもしずかに存在感を放つ本、
ひっそりと机においても、まだなにか伝えてくる力を放っているようです。
「もうすこしだけ」机の上に置く、という行為で
しずかな決意を示しているようです。

先日、『鳥の見しもの』が第21回若山牧水賞を受賞したそうです。
おめでとうございます。