傷をもつ林檎は傷を癒やすべくたたかひて内に糖を増すとぞ
柏崎 驍二 「アスペルギルス・オリゼ」『北窓集』
林檎のなかの糖をとらえた一首。
「癒やすべくたたかひて」とは、
矛盾したようでいて面白い表現だ。
癒やすべく休むとかではなくて、「たたかひて」は
ちょっと簡単には出てこない言葉じゃないだろうか。
傷をもつがゆえに、逆に得るものがあるという発想が私は好きだ。
ただ、傷をもった林檎のなかに
糖が増えるということへの理解や
それを見抜くまなざしは、
それなりの困難から自力ではい上がってきた人でないと
身につかない発想だろう、とも思っている。