波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「糖」

傷をもつ林檎は傷を癒やすべくたたかひて内に糖を増すとぞ
    柏崎 驍二   「アスペルギルス・オリゼ」『北窓集』 

 林檎のなかの糖をとらえた一首。

「癒やすべくたたかひて」とは、
矛盾したようでいて面白い表現だ。
癒やすべく休むとかではなくて、「たたかひて」は
ちょっと簡単には出てこない言葉じゃないだろうか。

傷をもつがゆえに、逆に得るものがあるという発想が私は好きだ。
ただ、傷をもった林檎のなかに
糖が増えるということへの理解や
それを見抜くまなざしは、
それなりの困難から自力ではい上がってきた人でないと
身につかない発想だろう、とも思っている。