波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「蜜」

夏の水玻璃にあふれてあふことの希れなる人に蜜を手渡す 

            紀野 恵 『La Vacanza』

 

暑くなってきました。つい涼しそうな歌を選んでしまう・・・。

グラスに注いだ水があふれてしまった光景から
めったに会えない人に「蜜」を手渡すという動作につながります。
この「蜜」がなんであるのか私にはよくわからない。
でもたぶんその特定の相手にしか渡したくないものなんだろうとは思います。

「あふれてあふことの」という音の繰り返しの軽やかさやリズム、
「夏」「玻璃」「あふ」「希れ」などのa音の連なりが
語のもつ涼しげなイメージを合わさって、
とても気持ちのいい一首です。