波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「夏蝶」

石段にひかりは層を成しにつつ夏蝶ふいに影を連れ去る
       吉野 裕之 『吉野裕之集』 

 

夏のつよい日差しがたまっているのを「層を成しにつつ」
と表現しているのに目が留まった。
降りそそぐ光はたしかに幾重にも重なるという把握もできる。

この一首で描かれているのは
蝶がすっと飛び去るだけなのだけれど、
影を「連れ去る」という動きの描き方で
影に、蝶とは別の重さがあるように思える。
そのおかげでやはり光の強さがよけいに
印象に残るのだ。