波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「嘘」

 嘘を吐くときには旅するごとく吐く日暮れてのちを残る海光
         光森 裕樹 「石垣島 2013」

 

光森さんは写真の上手な方で、「石垣島 2013」は石垣島のすごくきれいな写真と短歌が
セットになったちょっと変わった歌集です。

嘘を「旅するごとく吐く」とは面白い比喩です。
延々と嘘を言い続けるのか、それとも内面の迷いを抑えつつ嘘を言うのか、
いずれにせよ嘘をついたからと言って“本当”が消えるわけでもないのは
嘘を言った本人が一番よくわかっていること。

下の句の「日暮れてのちを残る海光」という情景が
自分の内面で存在しつづける“本当”の名残となっています。