波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「フォーク」

正しさって遠い響きだ ムニエルは切れる、フォークの銀の重さに
             千種創一 「keep right」 

 

2年前の塔新人賞の受賞作。すごく好きで何度も読んだ作品でした。
シリア内戦をベースに組み立てられた連作で、そのなかのひりひりした空気が印象的でした。

「正しさ」って確かに遠い。
戦争、内戦・・・争うときにはそれぞれが自己の正しさを掲げるものの、
戦闘による犠牲の大きさに慄きます。

【正義】のような立派な言葉をまとった争いの本当の理由はなんなのか、
それを冷静に見られるような人でいたいと、ちっぽけな存在ながら思います。

掲出歌は「ムニエル」という柔らかい料理が、食べるひとの手で切られるのではなく
「フォークの銀の重さに」切れる、としたあたりが視点の鋭さ。
人の意思うんぬんよりももっと大きな力で否応なしに現実がやってくる感じがして
とても怖い1首だと思っています。