波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「キリン」

昔からそこにあるのが夕闇か キリンは四肢を折り畳みつつ
    吉川宏志  「吉川宏志集」


動物園というと思いだすのがこの1首です。
キリンを詠んだ歌はほかの歌人の方にもあるのだけど、
寂寥感が漂うこの歌がとても印象深いのです。
「そこにあるのが」の「そこ」がどこなのかいまひとつ自信がないのですが、
はじめて読んだときにキリンの立っている位置、脚のあいだに
ぼんやりと侵しがたい空間があるように感じたものです。
折り畳まれていくキリンの脚と夕暮の時間の重なりを、一読してすぐ覚えてしまいました。