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波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

一首評 「麺麭」

描かれし教会の空に白雲は割きたる麺麭のごとくかがやく 山下 泉 「塔2016年10月号」 一枚の絵を眺めているときなんだろう、と思います。ぽっかり浮かんでいる白い雲が麺麭の断面のよう、という把握は素朴ですが「かがやく」という動詞でいきいきとした表現…

塔10月号の感想 その2

塔10月号で連載50回になる「中東通信」が終了しました。 中東在住の千種さんによるエッセイと短歌の連載でとても興味深い内容でした。 屋台のスイカが大きくて甘いこととか、床屋のおじさんとの会話とかちょっとした日常の断片から見えてくる景色がとても好…

塔10月号の感想 

久しぶりに塔の感想をあげておきましょう。 って10月号は2年に一度の「10代20代特集」・・・ 私が塔に入って2年経ったのね^_^; うーん、早い。 今回は合評をやっていて注目した方の短歌を取り上げてみましょう。 図書室の図鑑に眠る青い蝶狭い世界の中を生き…

塔の合評を終えて考えたこと

今年の7月から12月号まで、塔誌上の合評に参加していました。(実際に批評を書く範囲は5月号から10月号まで)塔に載っている作品をいくつか取り上げて、二者間で批評していくというスタイルで執筆しました。 まずは半年間、なんとか終わったぞ、っていう気分…

一首評 「目盛」

もうそろそろ秋を測りにくるだらう腹に目盛のあるオニヤンマ 小島 ゆかり 『純白光』 急に寒くなってきました。秋が一気に進んでいる感じです。この歌が詠まれたのは9月上旬くらい。秋になると飛んでいるトンボ、たしかにオニヤンマには見事な縞がありますが…

一首評 「水面」

読み終えし本は水面のしずけさのもうすこしだけ机に置かむ *水面=みなも 吉川宏志 「無花果」『鳥の見しもの』 この歌が収録されている連作の4首目には 吊り革を持つ手離して捲りおりふたたびを読む『チェルノブイリの真実』 *捲り=めくり という一首が…

一首評 「バター」

会はぬ日の男はこゑとおもふなりバターの味の濃くなる四月 小島 ゆかり 『純白光』 まるで季節が合っていませんが、好きなので取り上げます。この一首には合わせて、 かげろふやバターの匂ひして唇 小澤 實 という俳句がおかれています。かげろうは春の季語…

一首評 「香」

コーヒーの香をふかく吸ふ夜の胸にしづかに帰るけふの旅人 *香=か 小島 ゆかり 『純白光』 香りには強烈な喚起力があるようで、香りや臭いで昔のことやだれかを思い出すことがよくあるし、そんな歌もたくさんある。 コーヒーの香りも強い香りで、嗅ぐとい…

一首評 「茄子」

すでに終わった恋のようなる秋の日にかがやく茄子をひとつもぎたり 𠮷野 裕之 「三月は来る」『砂丘の魚』 この歌もとてもいいな、と思った一首です。「すでに終わった恋のようなる」がやはりいい。秋の澄んだ空気や日射しの様子とあっています。 終わったと…

𠮷野 裕之 『砂丘の魚』

今回は『砂丘の魚』を取り上げてみましょう。平易な語彙でかかれているのに、なんとなくつかみどころのない世界が広がっています。 あまり具体的なことに焦点を絞らずに、むしろ広がりがあるのが特徴かな、と思いつつ読んでいきました。 ■目の前の光景とかす…

一首評 「靴」

秋が来てふたりであるということのたとえば靴をなくしたような 𠮷野 裕之「甘きfura-fura」 『砂丘の魚』 ふたりでいるのに、靴を片方だけなくしたような感覚でいる、と読みました。靴は両足そろってこそ意味があるのですが、片方だけなくすとなんとも中途半…

一首評 「線」

便箋に銀の線ある秋の夜に人引き留める言葉書きおり *線=すじ 吉川 宏志 「鳥の見しもの」『鳥の見しもの』 秋の夜長にかく手紙はだれかを引き留めるための言葉だという。その言葉が届くのかどうかはわからないけど、相手の反応によってはもしかしたら最後…

一首評 「釦」

死ぬ朝のさいごの釦も自らのちからに嵌めたし 白きくちなし 福西 直美 「塔 2016年9月号」 福西直美さんも塔のなかで注目している方の一人。 今回はこの一首がとてもいいなと思いました。 いつか必ずやってくる死、その日の朝の「さいごの釦」を自分ではめた…

一首評 「萼」

子の目より紫陽花の萼大きくて子の目にどつと青があふれる 澤村 斉美 「塔 2016年9月号」 紫陽花の萼のほうが、小さなお子さんの目より大きい。大きさの対比からくる幼い子供へのまなざしが印象的な歌です。 まだ小さな子は今見ている紫陽花のこともその青い…

池内 紀 『文学の見本帖』

『文学の見本帖』という書籍が面白かったので、 ちょっとだけ感想をあげておきます。 司馬遼太郎や松本清張など、 著名な作家の作品とその背景について書かれていて、 ちょっとした読書案内にもなりそうな本でした。 歌人からは岡本かの子、寺山修司、若山牧…

一首評 「雨」

錆びついた窓から見える風景だ どうしたらいいどうしたら雨 吉川 宏志 「縦長の絵」『鳥の見しもの』 今回ももうひとつ、雨で終わる歌。 すぐ前に磔刑の絵の歌がおかれているせいかこの歌も切羽詰まった感覚で読んでしまいます。 「錆びついた窓」のむこうの…

一首評 「雨」

やわらかき部分を突いてくることばそれだけならばよいけれど雨 𠮷野 裕之「葡萄のような」 『砂丘の魚』 たぶん他者からいわれた言葉、自分の「やわらかき部分」を突いてくるだけでなくじわじわ浸食してくるようなダメージをもたらしてくるんだろう。そのじ…

吉川宏志 『読みと他者』

今回は吉川宏志氏の『読みと他者』を取り上げます。この本は2009年から2014年にかけて発表された時評や評論をまとめた本で時評の1回あたりの分量は短めで読みやすい本です。ただ内容は短歌の読み、そして原発事故、自分と他者の関わりなど非常に難しい問題を…

葉ねのかべ

先日、行った葉ね文庫で見たアート、葉ねのかべ。 針金で作ってある。繊細でびっくり。 どうやって作っているんだろう。 針金アートから落ちてできる影まできれい。そして布には川柳が書いてあるそうです。 加工して反転させてみた。これはこれでかっこいい…

一首評 「坂」

あさがほの一大群落這ひのぼるおらんだ坂に再たあひませう 紀野 恵 『La Vacanza』 「おらんだ坂」という地名がノスタルジックで惹かれる名前です。(・・・この地名は長崎ですよね、たぶん。 神戸にも北野オランダ坂ってあるけど) 「這ひのぼる」という動…

一首評 「庭」

裕子さんの庭かとおもふ塵取りとバケツ灼けゐるよその庭のぞく 小島 ゆかり 『純白光』 8月12日は河野裕子さんの命日でした。この歌は2012年の短歌日記として連載されていたもので8月12日の日付のページにおかれています。 亡くなった人のことは死後にもちょ…

一首評 「茄子」

人老いて茄子はしづけき八月の紺をささげてゐたるふるさと 高野 公彦 「住」『淡青』 茄子はつややかな光をおびて茄子紺といわれる深みのある色となって実る。 「紺をささげてゐたる」という表現が茄子の色やフォルムを鮮やかに思い浮かべさせてくれる。 だ…

一首評 「野心」

野心とは野のこころなれ夕ぞらのうつくしきまでを草のうへに寝て 真中 朋久 「塔 2016年7月号」 野心って本来はもっとギラギラしたものだけれどこの一首では「野のこころ」と分解して別の視点を与えています。ユーモアがあって面白い発想です。 「野のこころ…

一首評 「葉書」

葉書とは小さな紙と思うかなそこに余白を置いてあなたは 「ゆっくり私」『砂丘の魚』 𠮷野 裕之 相手から受け取った葉書だろう。 葉書をわざわざ「小さな紙」と言い直すことで質感や手触りが浮かんでくる効果があるのかもしれない。 簡潔な文章や挨拶が描か…

一首評 「和音」

天気雨一刷毛降りてメシアンの和音のごとく濃き虹は顕つ 大井 学 「カントの週末」『サンクチュアリ』 漢字の多い初句、二句から三句のカタカナによる人名へのつなぎが面白いなと思って気になりました。虹の色の調和を「メシアンの和音のごとく」とは美しい…

一首評「糖」

傷をもつ林檎は傷を癒やすべくたたかひて内に糖を増すとぞ 柏崎 驍二 「アスペルギルス・オリゼ」『北窓集』 林檎のなかの糖をとらえた一首。 「癒やすべくたたかひて」とは、矛盾したようでいて面白い表現だ。癒やすべく休むとかではなくて、「たたかひて」…

一首評「山査子」

長く暗き序章にゆれる山査子の茂みにともるような白い花 山下 泉 「塔 2016年6月号」 6月号の山下泉さんの詠草、とてもよかったなと思います。 取り上げた歌のなかでは、「長く暗き序章」という不吉なはじまりのなかで揺れている山査子の白い花を描いていま…

一首評「波」

夕光に離れて白き波があり死ののちも画家はその波を見る *夕光=ゆうかげ 吉川 宏志「塔 2016年6月号」 「モネの絵に」というタイトルがついた一連のなかに並んでいる歌です。絵画などの芸術をテーマに詠むとあまりうまくいかないケースもあるのですが、さ…

一首評「豆腐」

知っていて知らないふりをすることの、豆腐の春は白くて甘い 松村 正直 「塔 2016年6月号」 塔6月号の中から目に留まった歌をいくつか取り上げていきます。 松村さんの歌集を読んでいると3句目に「の、」という区切りを入れる方法をたまに見かけます。面白い…

一首評「葉」

家族には告げないことも濃緑のあじさいの葉の固さのごとし *濃緑=こみどり 𠮷野 裕之 「なつかしい声」『𠮷野裕之集』 家族であってもあえて言わないこともいろいろある。「も」という助詞がとても気になる。ほかになにを隠しているんだろうか、と思ってし…

旧月歌会に3回ほど行ってみた

なんか久しぶりの更新にして先週の歌会の感想。ややネガティブ気味っていうね・・・。 さて、ここ3回ほど旧月歌会といわれる塔短歌会の歌会に行ってみました。3回っていう回数は「自分とこの組織の雰囲気が合うかどうかちょっと行ってみたい」っていうお試し…

一首評「水」

会いたさは来る、飲むための水そそぐとき魚の影のような淡さに 千種 創一 「辞令と魚」『砂丘律』 日本を離れる一連の最後に置かれている一首です。 倒置で置かれた初句7音と読点によって強い印象のある出だしになっています。 会いたい、という気持ちの強さ…

一首評「六月」

六月といえば去年の湯布院の宿の朝の雨の緑の *朝=あした 𠮷野 裕之 『𠮷野裕之集』 ちょうどいまも6月ということで目に留まった一首。 この歌の大きな特徴は「去年の」から続く名詞と「の」の連続にある。6回の「の」によって去年泊まった宿での光景にフ…

第7回クロストーク短歌

先日、クロストーク短歌という吉川宏志さんが行っている短歌の勉強会に行ってきました。内容が興味深いので毎回行っています。 さて今回は「あれから5年 東日本大震災の歌を再読する」ということでゲストに梶原さい子さんをお迎えして震災詠を読んで考えてみ…

一首評「虹」

トンネルを抜け出づるたび虹の脚位置を変へゆく誰も黙して 梶原 さい子 「塔 2016年4月号」 車での移動だろうか、トンネルを出るたびに虹の脚の位置が異なって見える。それは当然のことだけど。でも虹って出ているとつくづく眺めてしまう。 虹は希望や幸せの…

一首評「扉」

ほのぐらき靴はき帰りゆく君の二つめの扉の鍵をください *扉=と 江戸雪 「色のない海」『江戸雪集』 「二つめの扉」とは面白い表現で、ひとつめが自分のためには存在していないことが分かっているんだろう、と読んだ。 上の句が「くつ・はき・かえり・ゆく…

塔2016年5月号の感想

5月号の塔には評論「五年目の諸相―東日本大震災から五年の歌を読む」が載っています。東日本大震災を詠んだ短歌を5年という時間を軸にして梶原さい子さんが論じています。 5年、とは短いようで一区切りついてしまう年月の単位です。なにも解決はされないけれ…

一首評 「鵯」

花の裏、花のおもてと縫うように鵯は桜の木を出入りする *鵯=ひよ 吉川 宏志 「塔 2016年5月号」 鵯が花の間をせわしなく動いているようすを「花の裏、花のおもてと縫うように」と描写しているのが目に留まりました。縫う、という動詞のおかげで一連の動き…

一首評「蜜」

夏の水玻璃にあふれてあふことの希れなる人に蜜を手渡す 紀野 恵 『La Vacanza』 暑くなってきました。つい涼しそうな歌を選んでしまう・・・。 グラスに注いだ水があふれてしまった光景からめったに会えない人に「蜜」を手渡すという動作につながります。こ…

京大短歌22号 その2

前回に引き続き、ゆるゆる感想です。「京都歌枕マップ」では京都の地名にかかわりの深い歌をピックアップして該当の場所と一緒に紹介しているのがとても面白かったです。小さいけどきちんと写真も入っていて、イメージを持ちやすいですね。 京都にはたくさん…

京大短歌22号 その1

相変わらず大充実の同人誌です。短歌、評論、京都歌枕マップなどどれも読み応えありました。2回くらいに分けてゆるゆると感想など書いておきます。 止んで知る雨降ることの優しさをまた忘れては夕暮れる冬 朝比奈 新一 昼の雪に花ふる名前あたえつつあなたの…

紀野 恵 『La Vacanza』

幻想的で美しい雰囲気を持つ紀野恵さんの短歌の世界はとても惹かれます。 『La Vacanza』は表紙をひらくと、トランクのイラストがあります。歌集タイトルから察することができるように休暇をイメージした世界が広がっています。 単に違うエリアや国に行くの…

一首評「目」

鶺鴒よ あなたを涙を纏うべくうつくしい目にまた還ろうか 小林 朗人 「帰蝶」『京大短歌22号』 難解だけれど美しい一連だな、と思いながら読んでいました。全体的に別れ、喪失がモチーフになっているようです。 初句で「鶺鴒」という小さな鳥に呼びかけてか…

一首評「パラソル」

パラソルが弾ける刹那呼びかへすその陰謀のふかく愛しき *弾ける=はじける 紀野 恵 『La Vacanza』 Vacanza=休暇、という意味のタイトルを持つ連作のなかの一首です。 最初に読んだ時には「陰謀のふかく愛しき」の「の」がとても気になったのです。「愛し…

塔4月号の感想 その2

塔4月号でもうひとつ面白かったのは浅野大輝さんの評論『「定型っぽく読める」を考える』です。(「っぽく」に傍点あり) 破調の構造を持つ歌なんだけど「定型っぽく読める歌」を取り上げて、なぜ破調構造があるのに定型に収まっているかのように読めるのか…

旧月歌会に行ってみた&塔4月号の感想

さて先日、ついに旧月歌会といわれる歌会に行ってみました。出不精の私にしては大きな決心。旧月歌会は30名くらいいる参加者のうち、4~5名が選者という怖い豪華な歌会です。 歌会によって批評の方法って違うのね。今までに参加した歌会では「いいな」と思っ…

一首評 「夏蝶」

石段にひかりは層を成しにつつ夏蝶ふいに影を連れ去る 吉野 裕之 『吉野裕之集』 夏のつよい日差しがたまっているのを「層を成しにつつ」と表現しているのに目が留まった。降りそそぐ光はたしかに幾重にも重なるという把握もできる。 この一首で描かれている…

一首評 「鳥」

鳥よりも鳥の名前が好きだから滴るひかり喉に溜めをり 大口 玲子『大口玲子集』 中国で日本語を教える日々の歌が並ぶ中に、この一首は置かれている。 鳥そのものよりも「鳥の名前」が好き、というのはやはり言葉への関心の高さなのか、名前を知ることで自分…

一首評 「林檎」

決断を林檎のやうに弄ぶ林檎の蜜のやうに尊ぶ 紀野 恵 『La Vacanza』 「決断」という強い気持ちを弄び、同時に尊ぶ、という行いの差にくらくらしてしまいます。 林檎という果実=つややかな外見や滑らかな手触り、林檎のなかの蜜=大切な秘められたもの、と…

一首評 「ほたる」

限りある生を互みに照らしつつほたるの点滅に息合はせをり 河野 裕子 『桜森』 久しぶりに読み返すと買った時には気づかなかった歌に目がとまることがあります。 初句の「限りある」がすこし言いすぎなのかな、と思いながらも「互みに照らしつつ」に妙に惹か…