波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

一首評 「なのはな」

やわらかく脈打つからだここにあるすべてのものを消して なのはな ひぐらしひなつ 『きりんのうた』 「塔」の新人賞作品にけっこう苦戦していて、 気まぐれに昔好きだった歌集を持ち出してみる。 結句の「消して なのはな」がとても印象深かったし、 それは…

塔2018年1月号 5

2月になってしまった・・・・。 でもがんばったら「塔」が届いたその月のうちに 全部、評を更新できそうかな、と思う。 日ごと夜ごと容易に不穏になる胸の森に一羽の飛ばぬ小鳥を 中森 舞 P173 不安とかストレスのせいで気持ちが不安定になりがちなのかもし…

塔2018年1月号 4

川の面に刺さりて鮎を釣る影を橋にもたれて数えておりぬ 永久保 英敏 P120 鮎釣りのために来ている人たちの 「影」に注目して、しかもその数を数えているという歌です。 人そのものではなくて影への着目、 数を数えるという行為になんだかこだわりがあります…

塔2018年1月号 3

鏡台に食ってかかるごと顔寄せてわかくさの妻が紅ひいている 垣野 俊一郎 P72 とても面白い歌です。毎日のように見ている妻の仕草を いきいきと描いていて、迫力があります。 「わかくさの」は「妻」にかかる枕詞。 「鏡台に食ってかかるごと顔寄せて」とい…

塔2018年1月号 2

みんなみの島を空より撃つに似てタルトレットをフォークで壊す 朝井 さとる P28 上の句は北朝鮮によるミサイル発射をふまえて詠まれているが 下の句はささやかな日常のお茶の時間。 世の中でどれどほ驚異的な出来事や事件が起こっていても 一般の人間は、仕…

塔2018年1月号 1

「塔」の表紙は半年ごとに変わります。 今回もおしゃれで素敵。 今年もなんとか「塔」の歌をいろいろ紹介できるといいな。 曼珠沙華見なかったといえば嘘になるしかし曠野はずっと続いた *曠野=あれの 吉川 宏志 P6 「見なかったといえば嘘になる」という…

塔2017年12月号 4

年内に「塔」12月号の評を全部アップしようと 努力しています・・・・・ なんとか間に合いそうなので いつもこのくらいのペースでやったらいいんじゃないの、って 自分で思いますね。 母のすすめる法律事務所を断って夕焼けのただ赤かった日に どのようなわ…

塔2017年12月号 3

あのひとの失くした部分にちょうどいいオシロイバナのたねをください 小川 ちとせ P97 大事な人の欠落した部分を埋めるために 「オシロイバナのたね」というささやかなものを願っています。 丈夫で育てやすい「オシロイバナのたね」を使って せめて失くした…

塔2017年12月号 2

地の中の六年が蝉のほんとうの命とおもう 階段を拭く 沼尻 つた子 P28 蝉は地上にいる時間よりも 地中にいる時間のほうがずっと長いことは有名ですね。 まぁ、蝉の種類によって地中にいる期間の長さはまちまちのようですが。 この歌では、人目につかずに土の…

塔2017年12月号 1

今年も最後の12月号が届きました。 1年、きちんと詠草出せてよかった。 塔12月号には松村正直さんの『風のおとうと』の 書評を掲載していただきました。 できる限りの力で書いたので、読んでほしいです。 溜飲を下ぐるがごときもの言ひのこのひとも信を置く…

塔2017年11月号 5

そして三角錐を指し「奥行きのあるトライアングル」って詩的 白水 裕子 P185 どういう状況の歌なのか、よくわからないのですが、 どこかで三角錐状のオブジェでも見ているのか。 なにかの続きとしての「そして」という接続詞の使い方や、 そしてさん/かくす…

塔2017年11月号 3

灯台の光が一周するまでの闇に思いしヴァージニアウルフ 小山 美保子 P96 ヴァージニア・ウルフの小説に『灯台へ』という小説があるので そこからの連想かな、とは思います。 「一周するまでの闇」という点が興味ぶかく 灯台の光が周っている限られた時間の…

塔2017年11月号 2

従兄弟からメールの返信届きたり郵便ほどの時間をあけて 北辻 千展 P62 *「辻」は点ひとつのしんにょう メールでやりとりしているけど 相手からの返信が数日後だったのでしょう。 「郵便ほどの時間をあけて」がよくて 使うアイテムが変わっても感覚はあんが…

塔2017年11月号 1

全国大会の特集なので分厚いよー。では月集から。 ははそはの母型彫刻機はベントン式 パンタグラフの原理とぞいふ 真中 朋久 P3 たしか、ある歌会で題詠「母」として出された一首でした。 題をそのままのイメージで詠むのではなく、 ちがうイメージに結びつ…

平日歌会に行ってみた。

久しぶりに「塔」の歌会の話など。 先日、塔事務所で行われている平日歌会に参加してみました。 木曜日の昼間にやっているので、なかなか参加できなかったのですが 今回は祝日とかぶっていたので、ためしに参加。 歌会が1時からなので15分くらい前に事務所内…

塔2017年10月号 5

ゆびさきに罅をなぞりて遠雷の まだだいじょうぶひとり諾う 神山 倶生 P162 「遠雷の」で宙ぶらりんになった感じがして そこで立ち止まります。 指先で細かい罅をなぞっている仕草から 「遠雷」という語が出てきたのか。 細かい罅や遠雷はなにか不吉な予感が…

塔2017年10月号 4

萎れゆくことと閉じゆくことの差異、朝顔の花は昼をゆれつつ 中田 明子 P114 日没の10時間後くらいには開花する朝顔。 そして、日中の暑さによって水分をとられてしぼんでいきます。 朝顔のフォルムの変化に萎れることと、閉じることの差異を 感じている主体…

塔2017年10月号 3

お元気そうと言われて一旦停止する気持ちを端から三角に折る 丸本 ふみ P62 お元気そう、と他人から言われても 案外そうでもないと主体はわかっている。 「一旦停止」はやや硬い言葉ですが、かちっと固まった感じが出ます。 「三角に折る」という点が面白く…

塔2017年10月号 2

二人きりで生きてきたとでもいふやうに父と母ゐて墓買ひしを言ふ 小林 真代 P24 「二人きりで生きてきた」ということはないはずだけど、 でもそのような雰囲気でいる両親。 子にあたる主体にしてみたら寂しいし、奇妙な感じだろう。 「墓買ひしを言ふ」は年…

塔2017年10月号 1

塔10月号には興味深い評論が載っていました。 大岡信の書籍について3人の評者が書いていました。 私が特に興味を持ったのは沼尻つた子さんによる 『うたげと孤心』に関する文章でした。 ちょっと読んでみたくなりますね。 では月集から。 死者が手を洗えるご…

塔2017年9月号 5

やっと終わるよー。 なんか9月号は手間取った。 めずらしく君が怒鳴った夜だった私の中の水を揺らして 魚谷 真梨子 P154 夫か恋人か、ケンカして相手に怒鳴られたのだろう。 ふだんはめったに怒らない性格の人なのだろうから 怒鳴られたときのショックはかな…

塔2017年9月号 4

・・・・・・もう塔10月号がきました。 早いなぁ。って仕事ぶりがすごいです。 緩斜面下らせて背中見守りき自転車練習のあの春の日は 垣野 俊一郎 P104 前後に採用されている歌から、 息子が自動車免許を取得したことが分かります。 その歌の間におかれてい…

塔2017年9月号 3

加湿器の音を雨かと間違ひぬやさしき雨を待ちてゐるかも 潔 ゆみこ P59 加湿器の音が雨に聞こえてしまったのは、 主体の雨を待つ気持ちからくるのだろう。 静寂な中に聞こえる雨を思わせる音が しんみりした雰囲気を出しています。 ただ、このままだとすこし…

塔2017年9月号 2

眉間より息吐くようなオーボエの奏者に銀の嘴の見ゆ 山内 頌子 P24 「眉間より息吐くような」という比喩に迫力があります。 また「銀の嘴」という表現が面白く 銀色のキイがたくさん並んでいるオーボエの隠喩だと思いますが 「嘴」という言葉で 奏者が楽器と…

塔2017年9月号 1

眠りいる間に外れしイヤホンゆ車内にゴスペル滲みていたり 三井 修 P3 電車とかバスなど公共の乗り物のなかでのことかな、 とおもって読みました。 だれかが耳につけていたイヤホンが外れて、 乗り物のなかに「ゴスペル滲みていたり」という状況になっていた…

塔2017年8月号 5

ふたひらの羽があるから蝶々は自由なのだと思い込んでた 八木 佐織 P160 蝶々の軽やかさから思い込んでいた自由だけど そうでないと気づくことがあったのでしょう。 蝶々のことを詠んでいながら、 主体の内面を見つめなおす歌になっています。 僕たちが存在…

塔2017年8月号 4

この道をムスカリ咲くよ踊るほどさみしい春もムスカリ咲くよ 吉田 典 P112 「踊るほどさみしい」という表現がとても印象的。 春だからわくわくするような気分になるかというとそうでもなく むしろソワソワして寂しいくらいという。 ムスカリは葡萄の房みたい…

塔2017年8月号 3

被ったり脱いだりぱたぱた煽いだり楽しくなってくるヘルメット 阿波野 巧也 P60 働くようになって、ヘルメットを被ることがあるらしい。 現場の詳しい状況は一連からはあまりわからないけど ヘルメット、という無骨なアイテムを詠みこんで ちょっとコミカル…

塔2017年8月号 2

はつなつの薄いカーディガンくたくたと椅子の背にありときどき落ちる 小林 真代 p29 夏用のカーディガンなので、かなり薄手だと思う。 もう着込んでいてくたくた感のあるカーディガン、 椅子の背にかけているけど、たまにすべり落ちるんだろう。 生活のなか…

塔2017年8月号 1

まだ暑いよー・・・ 塔8月号から見ていきます。 夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ 吉川 宏志 P2 木の下に落ちてもまだ存在感のある夏つばき、 たっぷりとした筆のような黄色の蕊は印象的です。 「まだ何かに触れたきような」が興…