波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

一首評 「コード」

イヤフォーンのコードを指に解くときひとは敬虔の表情をせり 大辻 隆弘 「ナックル」 『景徳鎮』 イヤフォーンのコードのからまりは どこか植物の蔓を思わせるときがあります。 細いコードがからまっている状態を指にとり、 するっとほどく時、どこか祈りに…

一首評 「水」

思い通りに生きることなどできなくて誰もできなくて水を分け合う 松村正直「花火大会」 「星座」2017年初菊号 P8 結社誌「星座」を拝見する機会があり、その中から。 ・・・「星座」ってさ、結社誌っていうよりも どこかの短歌総合誌みたいな作りですね・・…

塔2017年10月号 5

ゆびさきに罅をなぞりて遠雷の まだだいじょうぶひとり諾う 神山 倶生 P162 「遠雷の」で宙ぶらりんになった感じがして そこで立ち止まります。 指先で細かい罅をなぞっている仕草から 「遠雷」という語が出てきたのか。 細かい罅や遠雷はなにか不吉な予感が…

塔2017年10月号 4

萎れゆくことと閉じゆくことの差異、朝顔の花は昼をゆれつつ 中田 明子 P114 日没の10時間後くらいには開花する朝顔。 そして、日中の暑さによって水分をとられてしぼんでいきます。 朝顔のフォルムの変化に萎れることと、閉じることの差異を 感じている主体…

塔2017年10月号 3

お元気そうと言われて一旦停止する気持ちを端から三角に折る 丸本 ふみ P62 お元気そう、と他人から言われても 案外そうでもないと主体はわかっている。 「一旦停止」はやや硬い言葉ですが、かちっと固まった感じが出ます。 「三角に折る」という点が面白く…

塔2017年10月号 2

二人きりで生きてきたとでもいふやうに父と母ゐて墓買ひしを言ふ 小林 真代 P24 「二人きりで生きてきた」ということはないはずだけど、 でもそのような雰囲気でいる両親。 子にあたる主体にしてみたら寂しいし、奇妙な感じだろう。 「墓買ひしを言ふ」は年…

塔2017年10月号 1

塔10月号には興味深い評論が載っていました。 大岡信の書籍について3人の評者が書いていました。 私が特に興味を持ったのは沼尻つた子さんによる 『うたげと孤心』に関する文章でした。 ちょっと読んでみたくなりますね。 では月集から。 死者が手を洗えるご…

一首評 「鳥」

枝から枝へたぐるしぐさで生き延びてきみのてのひらを鳥と間違う 野口 あや子 『眠れる海』 今までの人生がとても危ういバランスに成り立っていたのだろうと思う。 「枝から枝へたぐるしぐさで」なんとか生きてきた その先に見えてきた「きみのてのひら」。 …

ぱらぷりゅい

「傘」という意味を持つ同人誌。 関西の女性たちが12人集まって発行しています。 (1回きりで終了らしいので、ちょっともったいない感じはしますが) 各人の12首の短歌が初めに収録されています。 この眉を蔑するもまた愛するも男だということ夜の紫陽花 江…

塔2017年9月号 5

やっと終わるよー。 なんか9月号は手間取った。 めずらしく君が怒鳴った夜だった私の中の水を揺らして 魚谷 真梨子 P154 夫か恋人か、ケンカして相手に怒鳴られたのだろう。 ふだんはめったに怒らない性格の人なのだろうから 怒鳴られたときのショックはかな…

塔2017年9月号 4

・・・・・・もう塔10月号がきました。 早いなぁ。って仕事ぶりがすごいです。 緩斜面下らせて背中見守りき自転車練習のあの春の日は 垣野 俊一郎 P104 前後に採用されている歌から、 息子が自動車免許を取得したことが分かります。 その歌の間におかれてい…

塔2017年9月号 3

加湿器の音を雨かと間違ひぬやさしき雨を待ちてゐるかも 潔 ゆみこ P59 加湿器の音が雨に聞こえてしまったのは、 主体の雨を待つ気持ちからくるのだろう。 静寂な中に聞こえる雨を思わせる音が しんみりした雰囲気を出しています。 ただ、このままだとすこし…

塔2017年9月号 2

眉間より息吐くようなオーボエの奏者に銀の嘴の見ゆ 山内 頌子 P24 「眉間より息吐くような」という比喩に迫力があります。 また「銀の嘴」という表現が面白く 銀色のキイがたくさん並んでいるオーボエの隠喩だと思いますが 「嘴」という言葉で 奏者が楽器と…

塔2017年9月号 1

眠りいる間に外れしイヤホンゆ車内にゴスペル滲みていたり 三井 修 P3 電車とかバスなど公共の乗り物のなかでのことかな、 とおもって読みました。 だれかが耳につけていたイヤホンが外れて、 乗り物のなかに「ゴスペル滲みていたり」という状況になっていた…

一首評 「物語」

烏瓜の揺れしずかなり死ののちに語られることはみな物語 松村正直 『風のおとうと』 松村正直氏の第四歌集。 今わたしが一番気合い入れて読んでいる歌集と言っていい! 今までの歌集のなかの歌の変化を思いながら ゆっくり読んでいます。 烏瓜というと、赤い…

塔2017年8月号 5

ふたひらの羽があるから蝶々は自由なのだと思い込んでた 八木 佐織 P160 蝶々の軽やかさから思い込んでいた自由だけど そうでないと気づくことがあったのでしょう。 蝶々のことを詠んでいながら、 主体の内面を見つめなおす歌になっています。 僕たちが存在…

塔2017年8月号 4

この道をムスカリ咲くよ踊るほどさみしい春もムスカリ咲くよ 吉田 典 P112 「踊るほどさみしい」という表現がとても印象的。 春だからわくわくするような気分になるかというとそうでもなく むしろソワソワして寂しいくらいという。 ムスカリは葡萄の房みたい…

塔2017年8月号 3

被ったり脱いだりぱたぱた煽いだり楽しくなってくるヘルメット 阿波野 巧也 P60 働くようになって、ヘルメットを被ることがあるらしい。 現場の詳しい状況は一連からはあまりわからないけど ヘルメット、という無骨なアイテムを詠みこんで ちょっとコミカル…

塔2017年8月号 2

はつなつの薄いカーディガンくたくたと椅子の背にありときどき落ちる 小林 真代 p29 夏用のカーディガンなので、かなり薄手だと思う。 もう着込んでいてくたくた感のあるカーディガン、 椅子の背にかけているけど、たまにすべり落ちるんだろう。 生活のなか…

塔2017年8月号 1

まだ暑いよー・・・ 塔8月号から見ていきます。 夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ 吉川 宏志 P2 木の下に落ちてもまだ存在感のある夏つばき、 たっぷりとした筆のような黄色の蕊は印象的です。 「まだ何かに触れたきような」が興…

吉川宏志 『夜光』

吉川宏志氏の『夜光』は第二歌集。 年齢としては20代後半にあたります。 若くして結婚し、父親になったことで子供の歌が増えてきます。 住んでいる京都、ふるさとの宮崎、 家庭、仕事、作者をとりまく環境が 静かに描かれています。 ■父であることの不可思議…

塔2017年7月号 5

お母さん東京は胡麻鯖食べんとよやけん久々に食べたいっちゃん 赤木 瞳 P203 胡麻鯖は福岡の郷土料理らしいんですけどね。 一首のなかでたっぷりと使われた方言がとても魅力的。 一首がまるごと母親に食べたいものをリクエストするときの セリフになっていて…

塔2017年7月号 4

花の図鑑、ではなくて葉の名前知るためだけの図鑑がほしい 石松 佳 P160 花の図鑑はいろいろあるけど 葉に注目しているところがとてもいいと思います。 「花の図鑑、ではなくて」の読点でちょっと目を引いて、 そのまま次の内容へと引っ張っていきます。 ど…

塔2017年7月号 3

蟻一匹見つめつづけて愛せるか 隣には君がゐて春嵐 福田 恭子 P115 妙に気になるのだけど、うまく良さがわからないときってよくあります。 「蟻一匹」とはとても小さな命、 「見つめつづけて愛せるか」はだれに言っているのか、 主体が自分に向かって言って…

塔2017年7月号 2

すんなりときたる諦め飛行機が雲をやさしく伸ばし続ける 宇梶 晶子 P25 何かをあきらめる感情が思っていたよりもすんなりやってきたことと 空に伸びていく飛行機雲の組み合わせに惹かれました。 飛行機のあとに長く伸びつづける雲や青い空のイメージがあるの…

塔2017年7月号 1

塔7月号には塔新人賞や塔短歌会賞の発表があります。 今年も読みごたえがあります。 さて、月集から。 〈歌一つ残ることなく・・・〉と詠む文明 〈残す〉と一字の差を思いみよ 池本 一郎 P2 *〈残す〉の「す」に○あり 今回の池本氏の一連には 「山上憶良・…

吉川宏志 『吉川宏志集』

吉川宏志さんの歌集を順次取り上げていってみましょう。今回とりあげる『吉川宏志集』には『青蝉』と『夜光』の抄が入っています。 おもに第一歌集である『青蝉』から取り上げてみます。(『青蝉』の蝉の文字が旧字なので代用しています。) ■ささやかな発見…

塔2017年6月号 6

塔6月号には興味深い座談会が掲載されていました。 「今ここにある歌を読むことー短歌の時評・批評を考える」です。 時評を担当したことがある方5名で時評について語り合っています。 時評は難しいながら、面白いと思って読んでいます。 読者である私の立場…

塔2017年6月号 5

やっと6月号が終わりますー。 総入れ歯になりぬと告ぐる父からの留守電を二度聞きて消したり 川田 果弧 178 細やかな描写が主体の心理を伝えてくれます。 「留守電」ということは、直接言われたわけでもないし、 父親が言葉を発した時間からも、ある程度の時…

塔2017年6月号 4

「何にでも名前を書く母でしたから靴の名前で見つかりました」 佐藤 涼子 131 東日本大震災にまつわる一連から。遺体の身元が判明したのは几帳面に靴にも名前を書いていたから。まさかそんなことで役に立つとは本人も家族も思っていなかったでしょう。「」の…