波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年6月号 1

2週間くらいほったらかしにしていたな・・・・。本は読んでいたのに。「塔」も今年の半分が届きました。 庭土にソラ豆の芽の並びをりよく笑ふ子の乳歯のごとく 栗木 京子 2 とても素朴な歌でいいな、と思いました。「ソラ豆」というカタカナ混じりの言い方が…

一首評 「栞」

卓上の本を夜更けに読みはじめ妻の挾みし栞を越えつ 吉川 宏志 『夜光』 吉川宏志氏の名前を記憶した歌といえばたしかこの一首だったと思います。何年も前、まだひとりで短歌を詠んでいるときに大型書店で立ち読みした短歌関係の雑誌の中にありました。特集…

塔2017年5月号 5

モアイ像のすすり泣くがに稀勢の里壁に向かひて肩を震はす 坪井 睦彦 168 たぶんテレビ画像を見て詠んでいると思うのですが、「モアイ像のすすり泣くがに」という比喩によって映像をそのまま写したような歌にならずに仕上がっています。「モアイ像」という意…

塔2017年5月号 4

おだやかに春につひえる愛憎に名前をつけておけば良かつた 濱松 哲朗 98 「春」に終わっていくのは、たぶん春が別れの季節でもあるためだと思います。愛情ではなく、「愛憎」という点がいいと思います。たしかに激しい感情であったはずなのに、名前さえ与え…

塔2017年5月号 3

正しさを愛する者らのつめたさの もう捨てましょう出涸らしのお茶 小川 ちとせ 72 正しさは強いけれど、ときとして冷たい。正しいことを言っている人たちは意見が違うものに対して、ときとして冷たい。っていうことを主体はたぶん、わかっているのでしょう。…

塔2017年5月号 2

陽をあびてしまいにはずり落ちてゆく雪そのものの白い激しさ 荻原 伸 28 屋根に残っていた雪でしょうけど、けっこうな量だったのでしょう。どさっと落ちていくときの雪の重みに注目しています。降っているときの軽やかさとは全く違う状態をあえて意識してみ…

塔2017年5月号 1

最近、塔の会員がそれぞれのブログやSNSで気に入った短歌を塔誌上から選んで紹介していることが多いですね。お互いにがんばっていきましょう。では月集から。 雪の街に傘をひらけばあたたかく傘の中には青空がある 栗木 京子 3 下の句がとても惹かれる一首で…

一首評 「バス」

きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏 「海へ」『メビウスの地平』 難解な歌も多い『メビウスの地平』のなかではかなり素直な詠みぶりだと思います。ある一人に出会ったことで人生が大きく決定されて以前・以後にはっきりと…

一首評 「舌」

ああ、雪 と出す舌にのる古都の夜をせんねんかけて降るきらら片 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 学生時代を過した京都を詠んだ一連のなかの一首です。「ああ、雪 と出す舌に」となっていて一字空けがあることですこし間が生まれて時間の操り方が巧みな初句に…

光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』

山椒魚が飛んだ日 (現代歌人シリーズ13) 作者: 光森裕樹 出版社/メーカー: 書肆侃侃房 発売日: 2016/12/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 光森さんの第三歌集。赤い表紙が印象的です。結婚を機に石垣島に移住した作者。今ま…

一首評 「楽器」

小夜しぐれやむまでを待つ楽器屋に楽器を鎧ふ闇ならびをり 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 雨宿りをしているのか、楽器屋の前で過ごしている時間のこと。楽器屋のなかを見て楽器ではなく「楽器を鎧ふ闇」に注目するあたり、感覚の鋭さを思います。「鎧ふ」と…

一首評 「金貨」

金貨のごときクロークの札受け取りぬトレンチコートを質草として 光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』 トレンチコートをクロークに預けるときに質屋に預ける品物を指す「質草」とは面白い表現です。クロークの札が「金貨」を思わせるものだったことからの連想でし…

塔2017年4月号 5

ここがもう境界なのだ 花花に埋もれし君のほほえみ固し 佐々木 美由喜 168 初句と二句では何のことかわからないのですがそのあとでだれか亡くなった人がいるのだ、とわかります。相手は固いほほえみで花に埋もれている。生きているものとすでに死んだものと…

塔2017年4月号 4

同僚に勝手にしろと言うた日は猫のポーズがうまくできない 山名 聡美 126 そうか、同僚にそう言ったか・・・・・明日からちょっと心配ですね。「言うた日」という言葉が印象的で言ってしもうた、みたいな感じが出ています。「猫のポーズ」はヨガのポーズだと…

塔2017年4月号 3

スーパームーン、バームクーヘン長音は耳からひとを幸せにする 福西 直美 77 なるほどなぁ、という感じで楽しく読みました。「長音」をたくさん含んだ名詞の楽しさを「耳から」幸せにつながる、とした点がとても面白い。誰かが発した音声を聞いていて月の美…

塔2017年4月号 2

作品1から引いていきます。 バスが来るまでの時間はバスを待つ大きな鞄のひとつ後ろに 荻原 伸 27 「バスが来るまでの時間はバスを待つ」とは当たり前なのですがけっこう長い時間待つ必要があるのかな、とも思います。バス停で並んでいるときに前の人が「大…

塔2017年4月号 1

・・・ブログの更新が止まってますな。いかんなぁ。では塔2017年4月号の月集から。 死を悼むは因縁浅きひとばかりさざなみのまぶしくて目を閉づ 綺麗ごとでなきことは言つてはならぬこと汝が悪はひそかに善に用ゐよ 真中 朋久 3 真中さんの歌から2首。誰かの…

塔2017年3月号 5

塔3月号はこれで終わり。若葉集から。 チェロに掛けた指がかすかに寒さうな音楽会の案内とどく 岡部 かずみ P168 「音楽会の案内」を見ていて「指がかすかに寒さう」と気づく。演奏者の写真が使われているのかなと思うのですが指の様子が微かな震えを思わせ…

塔2017年3月号 4

水槽のタイルの目地が揺らぎゐて豆腐屋の手が絹こしをすくふ 清水 良郎 P138 昔ながらの豆腐屋さんで、きぬこし豆腐を買っているところ。たしかにタイルの水槽になっていたな、と思います。「タイルの目地が揺らぎゐて」という水のなかの揺れを丁寧に描いて…

塔2017年3月号 3

人参の皮のあたりにある夢がスープのいろを濃くしておりぬ 澤端 節子 P67 スープの中で柔らかくなっている人参、「皮のあたりにある夢」というとらえ方が面白い。たぶん皮は剥かれていると思うのだけど人参に「夢」が残っていてスープの色に反映されている、…

塔2017年3月号 2

塔3月号の作品1から。 沈黙が答ではないあとすこし言葉澄むまで待つ冬隣 石井 夢津子 P23 沈黙している時間は考えている時間。「言葉澄むまで待つ」で自己の中の気持ちをしずかに見つめている主体なのだろう、と思います。「冬隣」という冬の訪れを感じさせ…

塔2017年3月号 1

塔3月号を読んでいきましょう。まずは月集から。 息子には息子の闘い 冬の野の遠いところで尖りゆく見ゆ 吉川宏志 自立していく年齢の息子を父親が遠くから見ている歌。「冬の野の遠いところで」という描写が映像かイメージの世界みたいです。「冬の野」で厳…

光森 裕樹『うづまき管だより』

うづまき管だより 作者: 光森裕樹 発売日: 2012/11/07 メディア: Kindle版 購入: 1人 クリック: 3回 この商品を含むブログを見る 光森裕樹さんの第二歌集『うづまき管だより』を読んでみました。2010年から2012年までの作品が収められています。 この歌集は…

一首評 「はなびら」

エレベーターにちらばつてゐるはなびらを浮かせるために押す地上階 光森 裕樹 『うづまき管だより』 第二歌集『うづまき管だより』を読んでいます。この歌は一番好きな歌です。 エレベーターという閉じられた空間にちらばるはなびら、それだけでもなんだか異…

一首評 「蕊」

つつじの赤い花はなつかし花よりも色濃く長き蕊もつことも 花山 多佳子 「築地」『晴れ・風あり』 つつじの花はたくさん咲いて、初夏の華やかな景色を作ってくれた記憶があります。たしかに蕊が長くて、すぅっと伸びていたなぁと思います。「蕊」という部分…

光森 裕樹 『鈴を産むひばり』

鈴を産むひばり 作者: 光森裕樹 出版社/メーカー: 港の人 発売日: 2010/08/11 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 39回 この商品を含むブログ (9件) を見る 光森裕樹さんの歌集はすでに第3歌集まででているので順に取り上げてみましょう。 『鈴を産むひば…

塔2017年2月号 5

若葉集から。 栞紐はさんでありしところより読み始めて馴染むまでのしばらく 高橋 ひろ子 P164 読書をはじめたときに、こんな感覚を覚えることはよくあります。「馴染むまでのしばらく」のあいだに前回までに読んでいた内容を思いだしていて読むスピードが上…

塔2017年2月号 4

作品2からもう少し。2月末は暖かかった。春は近い。 山積みの書類のやうにすることがあるがあなたよ夕陽をみないか 赤嶺 こころ P112 語順の巧さに惹かれる歌です。忙しさはわかっているけど「夕陽をみないか」という呼びかけをしている、もしかしたらせざる…

塔2017年2月号 3

作品2は多いので2回に分けます。 るるるると振れるブランコ掴まえて地にすれすれの空を漕ぎ出す 竹田 伊波礼 P71 「るるるると振れる」が面白い表現です。さっきまで誰かがのっていて、まだ振動を伝えるブランコでしょう。「地にすれすれの空」で空間に広が…

塔2017年2月号 2

作品1からいつくか。 たくさんの滴ふるえて流れゆく車窓は遠い額縁である 芦田 美香 P26 雨天のときに電車に乗っていると車窓をたくさんの滴が流れていきます。かなりのスピードなのでけっこう激しい動きになることもあります。「車窓は遠い額縁である」とい…

塔2017年2月号 1

さて、しばらく忙しくしていたので更新止まっていました。先日の旧月歌会のあとには美味しいシュークリームを食べていました。なんとか塔の評を続けましょう。 もうすぐ私は死ぬと言いしか唇のうごきが見えてアレッポの声 吉川 宏志 P2 シリア内戦で反体制派…

塔2017年1月号 5

天敵のない生きものにある自殺 アクアリウムに揺れる水草 加瀬 はる P170 「天敵のない生きもの」とは人間のことでしょう。文明をつくり、他の生物から脅かされることが減ったけれど自ら命を絶つこともある人間。水槽のなかでゆっくり揺れている水草の頼りな…

塔2017年1月号 4

逸らさずにひとを見つめる眸、それは古き写真にしずもれる井戸 *眸=め 中田明子 P118 写真を見ているシーンかな、と思いました。写真の中に写っている人は逸らさずにこちらを見てくる。あるいは本当に目の前にいる誰かの視線のことかもしれない。まっすぐ…

塔2017年1月号 3

春光は明朝体と思うとき文字で溢れる僕たちの庭 千種 創一 P78 おだやかな春光のまばゆさを「明朝体」という折り目正しい印象の書体としてとらえる感覚が面白い一首です。たしかに初々しい感じは「明朝体」かもしれない。ゴシック体とかポップな書体だと合わ…

塔2017年1月号 2

ゴキブリの平たい家を組み立てる、足ふきマットを貼る位置がある 相原 かろ P28 ゴキブリホイホイのことでしょうけど、「平たい家」という表現がなんだかおかしい。「足ふきマット」で足を拭いたが最後なんだけどよく考えると面白い発想のアイテムですよね。…

塔2017年1月号 1

月集から。今回から表紙が変わったのです。配色が渋めで素敵。 高麗黍阿蘭陀大麦なかんづく唐唐土のはるかなるかな *高麗黍=かうらいきび 阿蘭陀大麦=うらんだふいん 唐唐土=たうもろこし 真中 朋久 P7 今回の真中さんの詠草は読者の知識を刺激する一連…

塔2016年12月号 5

若葉集。やっと終わるよー・・・。もう塔1月号が届いたよー。 カーテンの隙より入りし月光を浴びたる肩より露草となる 水野 直美 189 とても幻想的で美しい一首です。「肩より露草となる」という描写で神話みたいな美しさがあります。肩というパーツの丸みと…

塔2016年12月号 4

塔12月号 作品2から。こちらは後半。 したような気がするこんな口づけをパックの牛乳流し込むとき 太田 愛 143 初句の大胆な入りかたがとても印象的な歌です。どう続くのかな、と思って読んでいくと、「こんな口づけをパックの牛乳流し込むとき」ときます。…

塔2016年12月号 3

塔12月号 作品2から。まず前半。 廃校の名を遺したる停留所二つありたり町に入るまで 富田 小夜子 P100 バスに乗っていて、町にたどり着くまでの間に「廃校の名を遺したる停留所」が二つある、という描写は淡々としていますが、現在の少子化の一面を端的に切…

塔2016年12月号 2

作品1から取り上げます。 しっぽまで餡の入った鯛焼きのようなる人の自慢のしっぽ 白水 麻衣 P34 「しっぽまで餡の入った鯛焼き」は嬉しいけど他人の自慢話はあんまり楽しくない。きっと話相手はとても自慢話が好きな人なのだろう、と思いました。ちょっと皮…

塔2016年12月号 1

なんとか続けましょう。塔2016年12月号からいいな、と思った歌を取り上げます。 今回は月集から。 一生のその殆どが幼年期なること羨し蟬声を聞く 山下 洋 蝉の一生がはかないものであることはよくいろんな作品のモチーフになっていますが、「幼年期」への着…

山下 洋 『たこやき』

塔の選者の短歌にはそれぞれの持ち味がよく出ています。山下さんの短歌は、力の抜けた感じや面白さがあります。『たこやき』は第一歌集で、当時からすでにおかしみやユーモアのある歌も収められています。 最近の山下さんの短歌はこんな感じ。 なあ鳶よ埋め…

謹賀新年

暦またきりかえてゆく 雪景色ひとつむかうにひろげるやうに あけましておめでとうございます。昨年はこのブログに来てくれた方もけっこう多かったし見た方から声をかけていただくこともあり、続けておいてよかったと思います。 今年は古典和歌をもう少ししっ…

柏崎 驍二 『北窓集』

風ありて雪のおもてをとぶ雪のさりさりと妻が林檎を剥けり (*剥くで代用) 『北窓集』の巻頭におかれている一首です。「風ありて雪のおもてをとぶ雪の」が「さりさりと」を導く序詞になっています。外を舞う雪の様子から、室内で林檎を剥いている様子につな…

大井学 『サンクチュアリ』

大井学さんの第一歌集を取り上げてみましょう。なかなか難しい歌集で、読んでからしばらく置いていました。私ではうまく読めない歌もいろいろあるので、読みのうまい人の意見を聞いてみたかったな。 大井さんの短歌を今回まとめて読んでみて、現代の生活をと…

大森 静佳 「サルヒ」

先日、なんとか手に入れた大森さんの「サルヒ」から少しだけ。今年の夏にモンゴルに行かれたときの写真と短歌で構成されています。モンゴル語で「風」を意味する「サルヒ」には大草原の景色が広がっています。 唇もとのオカリナにゆびを集めつつわたしは誰か…

『COCOON』  創刊号

今回はコスモスの結社内同人誌である『COCOON』を取り上げます。コスモスはかなりの人数を擁する大きな短歌結社です。歌歴の長い年配の方も多く、若年層がもっと自由に作品を発表、批評できる機会を作ろうということで創刊されたのが『COCOON』です。 ちなみ…

第8回クロストーク短歌

第8回クロストーク短歌に行ってきたので、ちょっと感想をあげておきます。あくまで私の感想なんで。いろいろ考えていたら長くなった・・・。 今回は「若い世代の歌をどう読むか」ということでなにかと「わからん」「淡い」とか言われることがある20代、30代…

一首評 「素足」

大いなる薔薇と変はりし靴店に素足のままのきみをさがせり 水原 紫苑 「湖心」『客人』 靴店に素足、という点が意外な感じで気になりました。新しい靴を探すときに、いちど素足(少なくとも靴は脱ぐ)になることを踏まえて詠まれているのではないかな、と思…

塔2016年11月号から 11

11月号の紹介、終わったなーとか思っていたら月集をとばしていますね。いや、別にわざとじゃなくて思いつきで新樹集から始めた都合、次のページに進んでいっただけです・・・・。 ネクタイをまた締めてゆく秋となり小鮎のような銀で挟めり 吉川 宏志 P2 たし…